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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(オ)131号 判決

上告代理人阿部義次の上告理由は別紙記載のとおりであつて、これに対し当裁判所は次のように判断する。

上告理由第一点について。

論旨は、原判決は経験則に背いて事実を認定し、且つ自作農創設特別措置法第一五条第二項の解釈を誤つたものであると主張して、本件建物はその位置環境、構造等すべて農業用家屋として適当であり、訴外堀内フジがこの建物に居住し十年以上も農業を続けておるから、それが非社会性を認められぬ限り農業経営の家屋として適当であるというのである、しかし原判決が証拠に基き本件家屋は農業用家屋として適当と認め難いと認定したのは相当であつて、経験則違反でなく且つ自作農創設特別措置法第一五条第二項の解釈を誤つたものとも認められないから論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、自作農創設特別措置法第一五条第一項の場合、同項第一号においては被買収物と当該農地との間に「利用上必要である」という従属性又は附随性を要するが、その二号においてはそのような特殊性を必要としておらぬ只単に開放農地の売渡を受けた者は賃借建物の買収を請求し得るだけの規定である。即ち一号と二号との間には確然と区別がある。然るに原判決はこの解釈を誤り二号の場合なお且つ従属性を必要とする旨判示されたことは賛同しないという。なるほど論旨のいう通り同条第一項二号には一号のように「利用上必要な」との明文はない、しかし同条の買収が農地売渡に附帯して行われるものであること同条一項本文により明かである以上、明文がないからとて利用上必要でないものまで買収することは同条の趣旨とするところではない、それ故論旨は採用することを得ない。(昭和二四年(オ)第三二二号同二六年一二月二八日当裁判所第二小法廷判決、集五巻一三号八四九頁、昭和二五年(オ)第一九八号同二七年八月二三日当裁判所第三小法廷判決、集六巻八号七二三頁参照)

また論旨は、原判決が訴外堀内フジが僅かに三畝一〇何歩の売渡を受けたに過ぎないことを理由に本件附帯買収を相当でないと判示したのに対し、右三畝一〇何歩を耕作するために本件宅地が必要であるというのであるが、同人が本件建物を必要とする理由は三畝一〇何歩の耕作のため必要であるというよりは、その生活のため必要であるというに過ぎず、かかる借家人の地位は借家法の保護もあり従前から多くの土地を耕作して居た者が新にわずかばかりの農地の売渡を受けたからとて特にその土地の耕作に必要である等特別の事情ある場合の外、従前よりの住宅及びその敷地を買取る権利を生ずるものとすることは出来ない。要するに原判決は法律解釈を誤つたものとはいえない、論旨は理由がない。

よつて上告理由なしとし、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)

上告代理人弁護士阿部義次の上告理由

第一点 原判決は、その四枚目表四行から裏四行に亘つて「本件家屋は、梁川町市街地の北部を東西に走る県道に面して存する商店向に建てられたもので、附近一帯に人家が立並び商店街を形成していること、堀内フジの亡夫久次郎は、昭和四年頃から本件家屋を当時の所有者阿部某から賃借して、薪炭商又は蚕物商を営んでいたが、支那事変後企業整備のために農業に転換し、昭和二十三年九月、久次郎の死亡後は妻フジにおいて引続き農業に従事し、本件家屋を住居又は物置に使用すると共に軒下の土間兼通路を農業上の作業場又は農具置場等に使用しているが(中略)本件家屋の附近には農を業とする者も若干無いことはないけれども、これ等も多くは戦時中企業整備のために転業したもので附近一帯は商家が多く本件家屋もその位置環境構造等の点からみて農業用家屋としては不適当である」と判示された。然れども、東北地方の小さな田舎町の場末にあつて、過去十年来堀内久次郎、堀内フジが農家として住居にも、物置にも、作業所にも使つて来ているこの建物、而も附近には堀内以外に専業農家二戸、兼業農家六戸あつて、両隣は農家、後は直ちに畑に続くこの家屋(原判決は単に「附近に農家も無いこともないけれども」という表現に止めているが、検証の結果や、第一審判決には詳細に現われている)が、農業用家屋として不適当であるとされることには賛し難いところである。近代科学を最高限度に利用した入植開拓者のモデル農家は扨て置き、在来の東北地方の田舎町外れの農家は概してこのような位置環境、構造である。附近が街並であることは、この家屋を挙げて農業用家屋として不適当たる理由にはならぬ。而も、堀内がこの家で十年以上も農業を続けており、被上告人も亦この家屋の一部十六坪で、田一反四畝、畑二反三畝を耕作する農家であるという原判決の確定した事実に照しても這間の道理は明らかであると思う。

なお、原判決は、堀内フジがこの家屋で農業経営するについての労力は、長男とフジとの二人であり、次男は警察予備隊に、娘は学校教員にそれぞれなつていることを挙げて恰もこれもこの家屋が農家不適当の一端であるかのよう表現をされているが、そのようなことは何等理由にならぬと思う。要は現実に堀内フジがこの家で農業経営をやり、それが客観的に非社会性を認められぬ限り、この家屋は堀内フジの農業を経営する家屋として適当なものであるといわなければならない。而も原判決は、何等堀内フジがこの家屋で、農業を経営することについて非社会性の存することを挙げておらぬ。要するに原判決は、経験則に背いて事実を認定し、且つ、自作農創設特別措置法第十五条第二項の解釈を誤つたものである。

第二点 原判決は、その四枚目裏五行以下において、自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号による建物の買収は、当該自作農となるべき者に売渡さるべき農地に附随し、主としてその農地の用に供せられているようなものゝ要すればその農地と密接不可離の関係にある場合に初めて許さるべきであるとされ、堀内フジは、その耕作農地田四反、畑一反一畝十四歩のうち、今回の農地改革で売渡しを受けたのは、隣村五十沢村字古川の畑三畝十四歩だけで、それ以外は従前からの自作である。即ち、同人経営の全体からみれば、それは極めて僅少な部分であるから本件の家屋は、同人の農業経営に主として供せられているもの、換言すれば密接不離の関係に在つたものとは認められぬから、堀内フジの本件建物買収請求は失当であると判示された。

然れども、自作農創設特別措置法第一条に明記されるように、同法は耕作者の地位を安定し、耕作労働の成果を公正に享受させることを目的としている。その第十五条も亦この目的に適応するように解釈されなければならぬ。折角自作農となつた者が住居の不安があつてはならぬから今までの借家は完全に所有権取得の途を拓いたのが第十五条の目的である。法文自体にみてもその第一項の場合は被買収物と当該農地との間に「利用上必要である」という従属性又は附随性を要するが、その第二項の場合においては何等そのような特殊性を必要としておらぬ。只単に開放農地の売渡しを受けた者は、賃借建物の買収を請求し得るだけの規定である。即ち第一項と、第二項との間には確然と区別がある。然るに、原判決は、この解釈を誤り第二項の場合においてなお且つ従属性を必要とする旨判示されたることは到底賛同いたし難いところである。

原判決は、堀内フジが僅か三畝十何歩の解放を受けたゞけで、本来それは同人の耕作面積に対比すれば僅少なものであり、即ち三畝十何歩の解放を受けたことによつて、同人は、自作農となつた者ではなく、もともと自作農であるのだから借家の買収請求はできないとされるのであるが、同人がこの三畝十何歩を耕作するについても、個有の田畑五反弱を耕作するについても、等しくこの建物をその本拠としなければならぬ。個有の五反弱を耕作するには、この建物に居住することが必要だが、解放を受けた三畝十何歩を耕作するについては、この建物に居住しなくてもよいということでもないし、徒歩二、三十分を要する距離にある三畝十何歩を耕作するときは、この建物に住まないというわけでもない。要するに同人の農業経営は、この建物に居住することによつてのみ初めて耕作労働の成果を公正に享受できるのである。若し、家屋所有者から明渡し請求その他の手段方法を採つて、その住居を脅かされんか到底その応接に遑を求め難く、やがて第一条の大目的は空文に了るであろう。即ち、原判決は、この点において法律の解釈を誤つたことを強く指摘するものである。

以上

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